第6回  これって失恋?           作 山本佳子

人物……小川鳩子(25)事務員

      西田茜 (26) 鳩子の同僚

      鈴原ルミナ(19)鳩子の弟の彼女。実家は化粧品も置く薬局

      小川満寿美(52)鳩子の母

      塚本大樹(22)鳩子の会社の新入社員

      その他


@まるふく産業・オフィス

   パーテーションで区切られた休憩室。

   午後2時遅めのお昼のお弁当をひろげる鳩子。
 
   塚本はコーヒーブレーク。

塚本「小川さんも今日の飲み会行きますよね?」

鳩子「それが残念、行けないんだなぁ。塚本君がどーしても来てほしいゆうんなら考えるけど」

塚本「えー。今日は社長も来はるゆうてたし。行きはったほうがいいんとちゃいますか?」

鳩子「だから、余計行きたくないの。ま、ほんとは、今日は『おケイコとマナブ君』の日やからやねんけ

 どな」

塚本「何習ってはるんですかぁ?」


   鳩子、ニヤリと笑って、

鳩子「そのうち世に出るからそれまでは内緒」

塚本「へぇーなんやろ。小川さんってなんか、いいっすよね。いつも自分っていうのがあって。仕事は仕

 事、プライベートはプライベートって感じ。昨日も速攻帰ってましたよね。あれはデートですかぁ?」

鳩子「そうゆうことにしとこかな」

塚本「やっぱ彼氏いるんですね。そのお弁当は自分で作りはったんでしょ?料理上手ですよね。

 彼氏がうらやましいっす」

鳩子「残りものばっかりよ。でもこの筑前煮はうまいことできてるから一口あげよか?」

塚本「いいんすか?このお箸借りまーす」

   
鳩子のお箸でしいたけとごぼうをつまんでパクリ。

塚本「(ビストロスマップの中居くんの真似)おいしー。ごぼうにしっかり味がしゅんでるし、しいたけもおい

  しー。今度ぼくの分もお弁当作ってきてくださいよ」

鳩子「いいけど、ちょっと高いで」

塚本「えーお金とるんですかぁ」


   笑うふたり


A同・フロア

   席に戻る途中、鳩子は西田茜に呼び止められる。茜は鳩子の腕を引っ張って給湯室へ


B同・給湯室

   鳩子と茜が話している。

茜「前から思っててんけど、塚本君って鳩子に気があるんとちゃうかな。こないだ、ほら、鳩子がドラマの

 最終回みなあかんからって早く帰った時あったやん、あのあと藤好が言うてたけど、塚本君、鳩子さん

 っていいですよねって結構マジに言うてるらしいで。さっきも楽しそうやったし」


鳩子「かわいい弟ってとこかな。それにあたし彼氏いることになってるし」

茜「なにそれ?けん制してるつもり?やっぱ、鳩子も意識してたんや」

鳩子「違うって。会話の流れでそういうことになっただけ。それに彼氏おれへんなんか、先輩として格好つ

 かへんもん」

茜「ま、いいわ。今後の展開を陰ながら見守っとくわ」


C小川家・台所(朝)

   お弁当二つ詰める鳩子。明らかに力が入った幕の内風。

   満寿美が覗いて、

満寿美「へー。今日はまた豪華やないの。あれ?それ、お母さんの分?なわけないよね。ってことは・・・、

 鳩子ちゃん!彼できたの?お母さんの知っている人?会社の人?ちょっとお父さん、お父さん」


   鳩子、食堂のほうにスリッパをパタパタいわせて小走り。


D同・洗面所(朝)

   祖父が送ってくれる小豆島のエキストラバージンオイルで頬、首、顎、入念にマッサージ。

   メイクもしっかり。マスカラで睫毛もクルン

鳩子「よっしゃー」


E駅・プラットホーム(朝)

   通勤客が列をなしている。

   鳩子も並ぶ。お弁当の入ったトートバッグを大切そうに持っている。

   ルミナが駆けてくる。

ルミナ「鳩子さーん。おはようございまーす」

鳩子「ちょっと、おねえさん、ここに並んだら横はいりやで。」

ルミナ「まぁまぁ、そう硬いこと言わんとこ。いやぁー久しぶりに1限目から出よう思ったら、こんなラッシュ。

 鳩子さんは毎朝、こんな早いの?お、使ってくれちゃってるね、ルミナお勧めのロングラッシュマスカ

 ラ!」


   電車が入ってくる轟音で鳩子の返事は消える。


F電車・中

   鳩子、ルミナ、並んでつり革をもって立つ。

   地下に入ると車窓にふたりが映る。

   ルミナは髪を直したり、目を大きく開いたり、シャツの襟を立てたりねかしたり。

鳩子の声「私のほっぺた下がってない? 目じりの皴も多くない? 美容院っていつ行ったっけ? 髪広がり

 すぎ? ルミナってどうしてこう顔がちっちゃいの。それとも私の顔が大きい?」

   車窓に映る姿が正視できなくて、鳩子は下を向く


Gまるふく産業オフィス(朝)

   社員達がしゃべっている。

社員A「いやーこんな身近にできちゃった結婚がねぇ。俺らの世代からいうたら考えられへんわな」

社員B「ほんま、ほんま。そやけど、30,40なって独身でヘラヘラやってるよりえらいで。」

   鳩子、来て、

鳩子「おはようございまーす。誰ができちゃった結婚なんですかぁ」

社員A「おはよ。鳩子ちゃん。鳩子ちゃんはそんなんせえへんやんなぁ。ほんま、最近の若いモンはどない

 なってんねん」

社員B「まま、おさえておさえて。新人の塚本君、結婚しとるんやて。できちゃった結婚。昨日の飲み会で

 カミングアウト」

鳩子「え?」

社員B「あと3ヶ月でパパや。鳩子ちゃん昨日来てなかったんや」

鳩子「へぇ、そうなんですか。かわいい顔して子供や思うてたら、これですか。ははっ」


   弱弱しく笑う鳩子


H同・給湯室・中

   冷蔵庫に入れようともってきたお弁当箱を見つめて鳩子深いため息。

   茜がお茶を配り終わって盆を返しに来る。

茜「どしたん?」

鳩子「お弁当いらへん?」

茜「え?どしたん?」

鳩子「昨日のおかずようけ残ってたから二つ作ってきてん」

茜「え、いいの?ほんまにいいの?もらっとくわ。鳩子お料理上手やもんね」

鳩子「ただとちゃうよ」

茜「お金とるんかいな」

鳩子「500円にまけといたげる」


   力なく笑う鳩子、大笑いする茜。

(終)