『小さな喫茶店？』

先日若い人たちとカフェについて話す機会があったのですが、流行のカフェに行く目的の一つとして、癒されたい、リラックスしたいということをあげる人が余りにも多かったことにちょっとびっくりしてしまいました。（みんな若いのになんでそんなに疲れているのでしょうね？ 先行きの不安からくる精神的な疲れなのでしょうか！） 　またもう一つ驚いたのが、喫茶店やカフェに初めて一人で入ったのは、大学生になってからや働き出してからという回答が多かったことです。鳩子の世代では喫茶店というのは、授業をエスケープして友達とだべりに行ったり、ちょっと背伸びしてタバコをすったりする場所だったのですよ！喉が渇いたりしたらどうしてたの、と思わず聞き返したところ、ファーストフードやファミレスに行っていたと・・・。 　う〜ん、思わぬところでジェネレーションを感じてしまいました。 　ところで今のカフェではボサノバやフレンチポップスがＢＧＭとしてもてはやされていますが、皆さんはかつて歌声喫茶（これはちょっと旧いかな！）や名曲喫茶、ジャズ喫茶、ロック喫茶なるものがあったのはご存知ですか？　さすがに歌声喫茶は今や残っていないでしょうし、名曲喫茶とジャズ喫茶も風前の灯火といったところですが、ロック喫茶なるものがあったことを知る人も少ないのでは？ 　昼間から大音量のスピーカーで、ハードロックやプログレッシブロック、あるいはサザンロックなどをがんがんかけていて、店内ではなぜかしら会話は厳禁、しかも体を動かして踊ることも無く、メロンフィズやバイオレットフィズにコークハイとこれまた懐かしい超甘目の酒を片手に貴重な音源に聞き入っていたものです。（というのも今のように手軽に音楽が手に入らなかったので、ＦＭからエアチェックをしたり友達同士でＬＰを貸しあったりと、涙ぐましい努力をしていたものなのです。） 　でも、そんな喫茶店には不思議と同じような嗜好をもった仲間が自然と集まり、なにか不思議なコミュニティーができたり、あるいはそこから新しい運動や文芸・音楽が起こっていたようにも思います。 　（本来のヨーロッパのコーヒーハウスやカフェはサルトルなどの例をひかなくとも、一種の共同体：町であることは皆さんはご存知だと思います。） 　ということで、今回は喫茶店やカフェも立派なロケハン地であるとい 　う考えのもと、いつもと趣旨を変えてみました。 　ちなみに鳩子が今気に入っているのは京都の喫茶店。京都ってやはり何か他の街と違う何かがある大好きな場所なのですが、皆さんもイノダ、フランソワ、築地などガイドブックに良く出てくる店には足を運んだことがあるのでは？ 　朝はご近所の旦那衆や商店主、昼間はサラリーマンや観光客、夜は独りゆっくり過ごす趣味人といったように曜日や時間によって趣が随分とかわります。 　もちろん大阪や神戸にも多くの喫茶店やカフェがありますが、特に京都の店では伝統や因習という言葉ではうまく説明できない背景が、店独特の雰囲気をうまく醸し出しているような気がします。 　ということで、今回鳩子がご紹介するのは阪急西院駅近くにある「コーヒー・マーケット」という店です。場所は駅から西大路通りを北に２分ほど上った右側にある、緑の日除けが目印となる店です。 　たぶん鳩子も西院に来なければ知らなかった店ですが、欧米で料理修行をした一見江守徹と藤岡琢也を足して二で割ったような渋めのご主人とムーミン村の住人のような女性二人が切り盛りしています。 　朝は７時半頃から店を開けていて、いつも真っ白なコック服にチーフをきりりと巻いたご主人が、ちょっと大き目ながら嫌味のない歯切れ良い声で「おはよーございますー」と迎えてくれ、大き目のカップにエスプレッソ風のコーヒーとサービスのカップケーキを出してくれます。客はコーヒーの香りを確かめるように静かに京都新聞を読むか、小さめな音で流れているＮＨＫニュースに耳をそばだて昨日の出来事を確かめ店を出て行くのですが、その時にも気持ちの良い声で「いってらっしゃいませー」と見送ってくれます。 　時間が過ぎると店には旧いシャンソンが終日流れ、昼には名物のカレーやカツサンドを求めて人が混雑し、昼下がりになると近所の商店主が一時の休憩に囲碁を打ちに集まってくるような居心地の良い不思議な空間がここにはあります。 　とかくお店には常連なる客がたむろし、周囲の迷惑をかえりみず自分達だけの場を作ろうとしますが、この店では心地よい距離感が店と客との間に暗黙の了解のように存在し、「アメリ」にでてきたような本当の意味でのカフェという空間を堪能することが出来ます。 　京都の本当の面白さと奥深さは、実は観光地にではなく、普段人々が生活しているはずれの街や裏路地にあるように思っているこの頃です。 　機会があればぜひ一度ゆっくり訪ねてみてください。 　そして、皆さんのお気に入りの喫茶店やカフェがあればぜひ教えてください。