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シナリオ・センター大阪校30周年記念賞<シナリオコンクール入賞作品>
課題「晩ごはん」 |
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○梅村家・台所 (夜)
6畳間に続く古い小さな台所。すぐ横の玄関脇に食べ残しの惣菜パックが詰まっ たゴミ袋。流し台にも食べ残しの惣菜と処方薬の袋。梅村辰子(66)が大量の薬 を一気に口に入れ飲み干す。 冷蔵庫にバツ印のついた7月のカレンダー。辰子、19日にバツをつける。21日に 丸がつき、入院と書いてある。 側にオードリー・ヘプバーンがベスパに乗り微笑むブロマイド。語りかける辰子。 辰子「ローマにはとうとう行けなかったねぇ」 辰子、残った惣菜をゴミ袋に捨てる。 ○後藤家・中 (朝) 8畳の洋室に台所が付いた奇麗な部屋。 二宮俊(23)が目玉焼を3個焼いている。 後藤理沙(23)が思い詰めた表情で、トーストなどが乗った食卓に座っている。 理沙「俊ちゃん…… やっぱり私、生みたい」 二宮「朝っぱらから何だよ。またその話かよ」 理沙「折角授かった命なんだよ」 二宮、3個の目玉焼きを見つめる。 二宮「俺、仕事も無いし…… 父親になる自信なんかねえよ」 理沙「でもね、俊ちゃん……」 二宮「ああ、もう! 食う気なくした!」 二宮、部屋を飛び出していく。 理沙、寂しげに二宮が閉めた扉を見る。 固焼きになった目玉焼きが焦げている。 ○クリーニング店・前 (朝) 理沙が店のシャッターを開けている。 辰子がぼんやりと前を通りかかる。 理沙「あ、お早うございます、梅村さん。クリーニング、とっくに仕上がってますよ」 辰子「ああ、あれね。悪いけど処分しちゃってくれる? もういらないから」 エッと驚く理沙を残して、辰子、去る ○コンビニ・中 (朝) おにぎり売場の辰子、表の駐車場で二宮が白いベスパから降りるのを目にす る。手にしたおにぎりをギュ〜ッと握り締め、ベスパに釘付けになる辰子。 辰子、入って来た二宮をねめ回す。 二宮、怪訝な顔で首をかしげる。 ○同・駐車場 (朝) 辰子がベスパに見惚れている。 辰子「(呟く)やっと本物に会えたじゃないか 硝子越しに二宮が就職情報誌を立読みしているのが見える。 辰子「(ニンマリして)なるほど。プー太郎か」 二宮が出てきて、エンジンをかける。 辰子近づき、腹を押さえて蹲る。 辰子「あ、痛、痛、いたたたた……」 二宮、驚いて辰子を見る。他に誰かいないかとキョロキョロするが、駐車場には 辰子と二宮しかいない。 辰子「痛い! 痛い! 痛い! 痛い!!」 二宮、仕方なく辰子に歩み寄る。 二宮「どうしました? 大丈夫ですか?!」 辰子「(苦しげに)すまないけど、あんたのスクーターで、病院まで直行しておくれよ」 二宮「えっ? これっすか? そんなの危ないっすよ。今、救急車呼びますから」 辰子「いいから、いいから! それに乗せて! 病院の場所は分ってるから」 ○路上 (朝) 二宮と辰子、疾走するベスパに。晴海、驚いて三浦の方を見る。 二宮「(大声で)ほんとに大丈夫ですか? しっかり捕まっててくださいよ!」 辰子「(嬉しげに)はいはい」 ○ゲームセンター・前 (朝) 二宮、辰子をベスパから降ろす。 二宮「本当にこの辺なんすか? 病院」 辰子「おかしいね。確かこの辺のはずだけど」 辰子、ゲームセンターの入口に歩み寄る。 顔が口を開けた機械がある。 辰子「あった、あった」 二宮「えっ?」 辰子「真実の口。何か後ろめたい事があると、手が抜けなくなるやつさ」 二宮「あのね、おばあちゃん。今病院を……」 辰子「(遮って)ローマの休日。見た事ある?」 二宮「ええ、まあ。つーか、もう治ってるじゃないですか。痛み、治まったんですね」 辰子「あんた、入れてみなさいよ」 二宮「はい?」 辰子「何もやましい事がなければ、入れられるはずだよ」 二宮、一瞬ギョッとなる。 二宮「つーか、これただの手相占いですよ。あの、もう治ったんなら、俺行きますから」 辰子「あ、痛! 痛た。また痛くなってきた」 二宮「もう、勘弁してくださいよ〜」 ○公園・中 噴水のそばで、笑顔の辰子とうんざり顔の二宮がソフトクリームを食べている。 辰子「誰かと一緒に食べると、美味しいねえ」 二宮「(憮然と)お腹痛どうなったんですか?」 辰子「これ食べ終わったら、また痛くなるよ」 二宮「あの俺、仕事ありますから。ご家族に連絡して、迎えに来てもらいましょうよ」 辰子「そんなもん、いないよ」 二宮「どうしてそういう嘘つくかな〜!」 辰子「嘘なもんかい。筋金入りの一人暮しさ。若い頃はそれが気楽でよかったんだけどね。プライドばっかし高くて、自分勝手で。でも年とると堪えるよ。一人っていうのも」 二宮「……」 辰子「家族や友人はね、宝物なんだよ」 二宮「……」 ○路上 (夕) 海岸線を走るベスパ。 二宮「(大声で)畜生! 何でこうなるんだよ!」 辰子「(ニコニコと大声で)どうせ失業中だろ! 付き合いなさい! (小声で深刻に)あ の世まで付き合えとは、言わないからさ」 ○展望駐車場 (夕) 海が見渡せる岸壁の誰もいない駐車場。 鍵のついたベスパを置いて、辰子と二宮が並んで海を見ている。 辰子「ホスピスって知ってるかい?」 二宮「はい?」 辰子「死ぬのを待つ人が入る所。楽に死ねるそうだよ…… 私ね、明日から入院する の」 二宮「またまたぁ、そんな事言っちゃって」 辰子「……な〜んてね。何か、喉渇いたね」 二宮「もう、脅かさないで下さいよ。じゃ、俺ちょっと買ってきます」 二宮、離れたところにある自販機で、飲物を買っている。 ベスパのエンジン音が響く。振返ると、 辰子がベスパで海の方に突進していく。 二宮「?!」 二宮、追いつき、ベスパから辰子を引き降ろす。倒れる辰子と二宮とベスパ。 二宮「(荒い息で)こ、こんなシーン、・ローマの休日・には、なかったっすよ!」 辰子「(荒い息で)死ぬの待つくらいなら、自分で死んだ方がましだよ!」 二宮「何言ってんすか! 折角授かった命、自分で消すなんてダメですよ!」 二宮、オロオロと泣き出す辰子の肩を優しく抱き寄せる。 ○梅村家・台所 (夜) パスタを作っている二宮を、辰子が奥の卓袱台で嬉しそうに見ている。 二宮「ったく、腹が減ってるから、ロクな事考えないんすよ」 辰子「手作り料理なんて何年ぶりだろうねぇ」 二宮、ふと冷蔵庫のカレンダーを見て、 二宮「本当に入院するんすか? そんな所に」 辰子「自分のいるべき所くらい、分ってるよ」 玄関でノックの音。二宮、火を止めて扉を開けると理沙がクリーニングを手に立 っている。アッと驚く二宮と理沙。 ○同・6畳間 (夜) 辰子、二宮、理沙が食卓を囲んでいる。 理沙「もう、クリーニングいらないなんて変な事言うから、心配したんですよ」 辰子「悪かったねぇ。でもお陰で、こんなに賑やかに晩ごはん頂けて、最高だよ」 ○同・台所 (夜) 二宮と理沙が並んで食器を洗っている。ギクシャクとした雰囲気。二人、小声で、 二宮「俺、まじで仕事探すよ」 理沙「えっ?」 二宮「だから、生んでくれよ」 理沙「俊ちゃん・・・」 二宮「折角授かった命だもんな」 ○梅村家のアパート・前 (朝) タクシーが待っている。 小型かばんを持った辰子が出てきて、不安げにアパートを仰ぎ見る。意を決して タクシーに乗ろうとする辰子、ベスパのエンジンの音に顔を上げる。 二宮がベスパでやって来る。 辰子「あんた、何で……」 二宮「送って行きますよ。じゃなきゃ、見舞いにも行けないじゃないっすか」 辰子、驚くが、パッと笑顔になる。 二宮「そんでもって(ベスパを叩き)こいつでまたここに戻って来るんすよ、王女さま」 辰子「(プッと噴出し)はいはい」 ○路上 (朝) 二宮と辰子を乗せたベスパが颯爽と走る。 <終> |
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