1998年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品 
課題「旬の恋」


晴海は魚繁!  作:小原 緑(44期生)
<人 物>
 三浦繁久(32)仲買人
 新庄晴海(30)セリ人
 仲買人A(52)
今年もゼミ生の中で一番新しい小原さんが、並みいる先輩たちをさし置いて最優秀賞に選ばれました。小原さんの5枚には課題の「旬」−食べ物の一番美味しいときと、一番輝いている恋をかけて、課題とのかかわり、テーマの絞り方などピカリと光るものがありました。
○京都中央卸売市場水産棟・セリ場(早朝)
   リンの音。そこここにたつセリ。その一つを仕切っている新庄晴海(30)。


晴海 「はい、サンマル、九七番!」

   少し元気のない晴海の様子を気にしながら参加している三浦繁久(32)。
   ×     ×     ×
   セリ引けの後、三浦が晴海に近づく。


三浦 「晴海。お前に話あんのやけど、ちょっといいか?」
晴海 「待って、何か、気分悪い……」

   晴海、口を押さえて座り込む。

三浦 「晴海! おい、大丈夫か?」

 
○同・通路(早朝)

   三浦が晴海を介抱している。


三浦 「妊娠?」

   晴海、小さく領く。

三浦 「ほんで、父親は?」
晴海 「亡くなってん。先月、事故で」

   しばし、沈黙が流れる。

三浦 「それで、お前、どうする気なん?」
晴海 「どうするって、もちろん産むつもりや産んで、一人で育てる」
三浦 「そんな、一人でって……」
晴海 「そやかて、この子はあの人が生きてたゆうたった一つの証やもん」

   晴海、きっぱりした顔。見つめる三浦。

○同・魚繁商店・中
   三浦、座りこんで溜め息。懐から小さなケースを取り出し、中の指輪を見る。

○同・セリ場(早朝)
   晴海がセリ台に上がって、リンを鳴らす。仲買人達が集まる。
   三浦が指輪を掲げて、駆け寄る。


三浦 「晴海や! 晴海をまるごともらう!」


   晴海、驚いて三浦の方を見る。

晴海 「アホ。何ゆうてんの。あんた、知ってるやろ? 私のお腹には他の男の子供
 がおんねんで」
三浦 「子持ちの時が旬ゆう魚はなんばでもおる。それ見極められんかったとあっち
 ゃ、男魚繁、一生の不覚や!」
晴海 「繁ちゃん……」
仲買人A 「記帳係、晴海は魚繁って、しっかり書いとけ!」

   周囲から一斉に暖かい笑いと柏手。
   涙ぐむ晴海と照れる三浦。
 

 <終>
【ノミネート作】
「恋の病」 山本照美
「クリスマスにはバレンタインチョコレートを」 杉本明生
「泳げ 恋!」 泉家道子
「必勝!恋愛マニュアル本の使用法」 藤平恭子
「磁石な二人」 鈴木達也