1999年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品 
課題「2人のヴィンテージ」


マグナム’99(ナイティ-ンナイン)  作:加賀 元子(47期生)
<人物>
高野慎二(35)国際通信社特派員
今村 渡(38)IP通信社特派員
その他
課題の「2人のヴィンテージ」で、「記念」と云う広義の解釈が狙いでした。加賀さんの作品は、設定にインパクトがあり、回想に入る前の興味の惹き方、人物のシンプルさ、「2人」の解釈のユニークさと、光るものがありました。
○コロンビア大学記念ホール・中
   舞台への階段を上がる高野慎二(35)の背中。

○(回想)ホテル・ハノイのバー・中(夜)
   思いつめた表情の高野がカウンター席に座り、カウンター端に座っていた今村
   渡(38)が近寄って来る。

今村 「国際通信のエースがシケた顔だな」


   高野、眩しそうに今村を見上げて、


高野 「今村…、今回ばかりは俺の見当違いか?……どうだ首都ハノイのこの平和
 ムード……IP通信のあんたの同僚も浮かれてたぜ」
今村 「中国国境軍の動きが気になるのか?」


   高野、むすっとして正面を向く。
   一方、今村は高野に体を向けて、


今村 「どうやら、キナ臭さを嗅ぎ取ってるのは俺たちだけだぜ、またしてもな……」

   高野、グラスを飲み干し深く息を吐き、

高野 「そうさ、他社の連中はアメリカとの通商条約締結準備に来てるヤンキーの尻
 を追い駆け回してるよ。国境ばかりに気が行く俺は能ナシで、明後日には本国送還
 さ…」


   今村、やれやれ、という顔。

今村 「なあ、俺達はいつでも能ナシなのさ。高野……、向こうの国境軍は明朝動く、
 条約締結を背中から威嚇しようってんだ」


   高野、驚いて今村の方へ向き直る。        

今村 「お前も冴えてるぜ! ピュリッツァー賞は俺が先だ。そん時ゃシャンパンシャ
 ワーを頼むぜ、特大のマグナムでな……」


○(回想)べトナム国境付近の野原(早朝)
   平原に集結する部隊。
   高野領いてカメラを抱え、屈んで進む。
   赤い星を付けた狙撃兵、高野を狙う。
   今村、狙撃兵に気付き、とっさに立ち上がり、高野に向かって走る。
   銃声何発か、振り返った高野、息をのむが、すぐカメラを構える。
   シャッターを切る音、倒れる今村の姿。
   我に返った高野、今村に駆け寄る。
   血に染まった今村、弱々しく笑って、


今村 「撮ったか、俺を、それでいい……」
高野 「だめだ! お前マグナムで、シャンパン・シャワーをって! こんな所でだめだ
 っ−」


○元のコロンビア大学記念ホール・中

   ライトを浴びたスーツ姿の高野、目頭を押さえるが、すぐ毅然と頭を上げ、


高野 「(英語で)今世紀最後のピユリッツァー、記念すべき栄誉は、亡き今村渡と共
 に」


 <終>
【ノミネート作】
「指輪の結び目」 中前美智子
「買われた記念日(ヴィンテージ)」 大西宏志
「桜の季節」 高井佐知子
「予想屋」 千葉隆司
「黄金のモミの木」 山田真矢